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|視点|新型コロナウィルス感染症と中国伝統医療からの教訓(ジャヤスリ・プリヤラルユニ・グローバル・ユニオンアジア太平洋支部財務部長)

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【シンガポールIDN=ジャヤスリ・プリヤラル】

人類は、目に見えない敵と闘う「いばらの道」を歩んでいる。新型コロナウィルス感染症の世界的大流行(パンデミック)が猛威を振るう中、多くの国々が、自国の状況をまるで戦争のようだと感じている。こうした中、パンデミックと闘うヒーローも、まさに戦場の最前線に立たされている。

こうしたヒーローたちの職業は、罹患患者を治療する医療従事者をはじめ、治安、運輸、郵便、金融、小売関係者など実に多岐にわたり、彼らはコミュニティーを機能させるために、病院や遺体安置所、墓場などで日夜必要不可欠なサービスを提供している。

しかし、自身や家族への感染リスクに直面しながら激務をこなしている医療従事者らの貢献は、しばしば過小評価されている。残念なことに、こうした無名のヒーローたちに与えられている労働環境は、社会ピラミッドの底辺にあり、他の人々が享受している基本的な人権さえ満たされていない。

世界で4470万人が新型コロナ感染症に罹患し、117万人が死亡している今日、事態はおおよそ制御困難な状況に陥っている。パンデミックの状況を制御することが、主要な指導者たちに求められていることだ。しかし多くの国では、それどころか、感染拡大が状況を支配してしまっているようだ。

困難な状況に対処するために、米国の退役軍人ジョージ・S・パットン将軍の言葉を引用しよう。パットン将軍は、「未知のものに備え、過去の人々が予見・予測不可能なものにいかに対処してきたかに学べ。」と述べている。現状で見えてくるものは、多くの政治指導者らが、「既知の未知」と「未知の未知」の領域を混同し、自分の都合のために喜んで科学や医学的な助言を無視している事態だ。多くの国々で、過去の経験に学ぶことはもとより、状況を抑え、危機を乗り越えるいかなるヒントも戦略的計画もないままに無責任にリーダーシップを振るう様子が見られる。

1918年から19年にかけて、今回と同じようなパンデミックが世界で猛威を振るった。H1N1インフルエンザが引き起こした通称「スペインかぜ」で、極めて致死率が高い(死者数5000万人~1億人)恐るべきパンデミックだった。公正を期して言うならば、このインフルエンザはスペインを発祥とするものではない。当時の世界人口の3分の1にあたる約5億人がこのインフルエンザに罹患した。欧州の列強諸国が帝国主義的な支配を巡って争った第一次世界大戦が世界に拡大する中で、このインフルエンザは各地に広まった。当時の科学はそれほど進歩しておらず、病原体がバクテリアであれウィルスであれ隔離することができなかった。

当時でさえ、インフルエンザは中国が起源だとする陰謀論があった。実際は、他の地域に比べると、パンデミックや、それによる死亡は中国ではほとんどなかったのである。中国各地での記録が入手困難であったことから、そうした統計は正確でないと考える者もいる。中国で当時感染が広がらなかった理由として考えられるのが、中国伝統医療の存在である。土着の治療方法が病気の拡大に対抗するために利用される伝統がこの地にはあった。

中国の湖南省武漢で新型コロナウィルス感染症の制御に成功した西洋医学の医師たちは、中国伝統医療の担い手による貢献が高かったことを強調している。

したがって、パンデミックを抑制する上で中国伝統医療にどんな影響力があるのか、どういう意義があるのかについて検討することは有益だろう。その起源は3000年前にさかのぼる。中国伝統医療の担い手たちは、伝統的な薬草の煎じ薬で患者を治療し、患者の症状を克明に観察した記録を代々継承してきた。

13世紀に中国を訪れたイタリア人探検家のマルコ・ポーロは、元王朝の皇帝の従者らが、皇帝が食事をする際には、絹の布で口と鼻を覆わなければならなかったことを記録している。中国の医療科学者である伍連徳氏は、清王朝(1644~1911)末期に中国東北部で発生した疫病対策として2層のガーゼから成る「伍マスク」を発明した。様々な国の専門家らが、入手が容易な材料で安価で製造でき、目的にかなうこのマスクを称賛した。

依然として多くの人々が、新型コロナウィルス感染症の起源解明に取り組んでいるが、歴史的記録から一つ確かなことは、私たちが現在使用しているマスクの起源は中国(=伍マスク)にあるということだ。したがって、中国に疑念を抱く人々が、たとえマスクが中国製でなくても、健康を守るために(中国起源のマスクで)口や鼻を覆う行為に抵抗を感じていたのは明らかだ。

筆者には中国伝統医療に関する基本的な知識がある。中国伝統医療の病因論においては、病気とその原因を把握するうえで適用される8つのカテゴリーと原則がある。症状と症候群が医学的に検証され、陰、陽、外、内、冷、熱、過剰、不足の不均衡の観点から診断される。そのため、中国伝統医療では、今日私たちが知っているようなバクテリアとかウィルスといった病原体を把握することはなかった。中国伝統医療で、新型コロナウィルス感染症のようなパンデミックが外部の病原体によって引き起こされたとみなされているのはそのためである。

これらの外部の病原体は、皮膚や鼻や口の粘膜を通じて人体に入り込んでくる。鼻は肺への入り口であり、口は脾臓への入り口、舌は心臓への入り口である。病気の拡大を予防するためにマスクが使われた理由は、中国伝統医療に従って、病原体が風によって外部から運ばれてくるという見方が採られたことによる。従って、マスクをすることによって、すでに感染していたとしても病原体の拡散を防ぎ、他人から伝染させられることも予防できるのである。

マスクをするということは、責任ある市民としてこうした価値観を尊重する日本や台湾などの東アジア文化圏ではとても一般的な習慣となっている。

中国伝統医療で用いられる治療法と(スリランカの伝統医術である)アーユルヴェーダやヘラウェダカムの間には多くの共通点がある。外部から風に乗って病原体が侵入してきた際、治療法は主に免疫の強化と、身体から病原体を追い出すことに焦点を当てている点である。

治療に使われる芳香性ハーブの多くには、身体から病原体を追い出し、(中国伝統医療ではある種の内部的なエネルギーとされる)「」を充実させ、血行を促す作用がある。

スリランカや中国の伝統医療で使われているハーブの材料には多くの類似点があるが、その効能はさまざまだ。中国伝統医療は、これらの原則とは別に、さまざまな疾病を引き起こすパターンを認識するために、感情的な要素や気候条件などを考慮に入れている。

新型コロナウィルス感染症のパンデミックの到来で、SNS上では、こうした議論の正しさを確かめるように、免疫を強化し心身の幸福感を高めることの重要性を指摘する書き込みが増えている。たしかにこれらは意味のあることだが、最も重要なことはソーシャル・ディスタンスを保ち、マスクをすることだ。

パンデミックを抑えてきた方法と中国伝統医療の原則に関する歴史的事実は、新型コロナウィルス感染症対策が、中国以外の国々で失敗した事例を説明する際に有効だ。中国の場合、その権威主義的な統治スタイルと、国内各地を断固都市封鎖(ロックダウン)する習近平国家主席の指導により、ウィルスの拡大防止と状況を収拾することに成功した。また、中国の一般市民が規律を守って指導に従った背景には、中国社会に根付いた文化的な側面や信条が作用したものと考えられる。

この点を明らかにするために、改めてジョージ・S・パットン将軍の言葉を引用しておきたい。「(部下に)どうやるかを教えるな。何をするかを教えろ。そうすれば思いがけない工夫をしてくれるものだ。」こうしたやり方が、中国では機能したが、他の国々ではうまくいかなかったのではないか。

新型コロナウィルス感染症対策に失敗している国々では、中国の場合と異なり、民衆は何をなすべきかについて明確なメッセージを受け取っていない。優先順位はバラバラで、不明確なメッセージが民衆を混乱に陥れている。今日、一部の民主主義国の指導者らは、選挙で民衆のナショナリズムを煽り、その人気に乗じて権力の座に就いている。こうしたポピュリスト政治家らは、選挙で勝つための情報操作が巧みだ。しかし、何をなすべきかについて人々にメッセージを発することは不得手であり、過去に予見・予測不可能な事態にうまく対処した先人の経験から学ぶことはなかった。さらに、科学や専門医からの助言もあえて無視した。こうして、新型コロナウィルス感染症の問題を通じて、多くの政治家の指導力が試されることになった。

少なくともこれからは、こうした指導者らは、過去に類似した状況下で効果的に対処した解決法に難癖をつけるのではなく、問題の解決策を探る必要がある。この記事は、有権者である読者が、パンデミック対策に失敗している指導者たちに影響力を行使し、正しい道に導く参考とするために、史実や問題、別のオプションを提示したものである。(11.22.2020) INPS Japan/ IDN-InDepthNews

※著者は、世界150ヵ国・900の労働組合・2,000万人の技能労働者・サービス労働者で構成される国際組織「ユニ・グローバル・ユニオン」アジア太平洋支部(シンガポール)の財務部長。

 

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