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|視点| 終わりなき戦争(セルジオ・ドゥアルテ科学と世界問題に関するパグウォッシュ会議議長、元国連軍縮問題上級代表)

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Photo: Protestors at a February 2022 rally against Russia's invasion of Ukraine march past the statue of Tsar Alexander II in Senate Square in Helsinki. CC BY 2.0

【ニューヨークIDN=セルジオ・ドゥアルテ】

国連憲章は国際法の重要な規範を確立した。その前文は「われらの一生のうちに二度まで言語に絶する悲哀を人類に与えた戦争の惨害から将来の世代を救う」とする決定を確認している。憲章が採択された当時は、欧州やその他の地域を直接巻き込んだ2度の戦争によって世界が大きな衝撃を受けていた時期であった。憲章が高邁な目的を掲げているにも関わらず、国連の設立から77年の間に、地球上のさまざまな場所で武力紛争が発生した。

1945年から今年の2月までの間、1990年代にバルカン半島で旧ユーゴスラビアを構成した共和国間での紛争があり、NATOが軍事作戦を遂行した以外は、欧州の領土で戦争は発生しなかった。しかし、いくつか例を挙げるならば、朝鮮やベトナム、中東、アフリカやラテンアメリカのいくつかの国や地域は、大国の政治的、経済的利害によってしばしば引き起こされた戦争の被害から免れることができなかった。

この77年の世界における武力紛争(その一部は現在進行形である)のリストは長く、悲劇的でもある。潤沢な資金を持った軍事産業が対立を煽り、戦闘を助長してきた。

第二次世界大戦後の数十年間、欧州では、大規模な紛争がなくても、緊張した不安な時代が続いた。政治的、イデオロギー的に対立する2つの重武装した陣営が、スカンジナビア東部からバルカン半島へ、さらにはトルコや地中海の一部を北から南へと貫いた線に沿って分断された地域をそれぞれ抑えて対峙した。その片側には、米国が主導して1949年に創設された北大西洋条約機構(NATO)があり、もう片方にはソ連が率いたワルシャワ条約機構があった。

2つの軍事同盟は、いくらかの危機はあったものの、直接戦火をまみえることはなく、微妙な戦力バランスを保っていた。この時代は「冷戦」期と呼ばれ、ソ連の解体まで続いた。そのイデオロギー的な要素は、国際秩序における権力と影響力の追求へと次第に取って代わった。冷戦は消滅したのではなく、単にその形を変えただけだったのである。

ソ連崩壊後、ワルシャワ条約機構は1991年に終了した。それから30年、その構成国の大部分がNATOに引き寄せられ、西側諸国に近い原則を持った政治的・経済的仕組みを採るようになり、いまや加盟27カ国となった欧州連合に加入した。

「東」だとか「西」だとかいうのは、あくまで相対的な概念にしか過ぎない。それは見る者の立ち位置によるのである。政治的、経済的、軍事的に、欧州の西側諸国(戦後におけるその象徴的な境界線はベルリンの壁だったが)は、ソ連を継承したロシア連邦とほぼ境界線を接するまでに迫っている。

さらに最近では、NATO・ロシアの両陣営とも、他者を主要な敵だとみなすようになってきている。両者とも幻想の優勢を求めてあらたな軍拡競争に走っている。「核戦争に勝者はおらず、戦われてはならない」とする米ロ共同声明が2021年に改めて出されたにも関わらず、相互の不信感が募っている。

ロシアは、NATOの東方拡大はロシアの安全への脅威であり、隣国であるウクライナがNATO加盟をめざすのではないかと警戒感を持っている。ロシアの懸念に根拠がないわけではないが、ロシアはそれを回避するために武力侵攻の道を選んでしまった。

理由はどうあれ、こうした態度は端的に国連憲章に完全に違反している。国連のすべての加盟国は、憲章に署名することによって、国際紛争を平和的手段によって解決し、他国の領土的一体性に対する武力の行使あるいは武力による威嚇を行わないとの約束をしているのである。

NATOの創設条約は、1つ以上の加盟国に対する武力攻撃を全体に対する攻撃とみなし、軍事的対応を行うとしている。ウクライナはNATO加盟国ではないため、NATOはこの紛争に直接介入する義務はないが、一部の加盟国はウクライナに対して武器供与を行っている。同時に、ロシアに対して個別的・集団的な厳しい制裁を課して、同国を経済的・軍事的に弱体化させ、ロシア政府に対する国内の反乱を誘発することを期待している。

紛争を外交によって解決する道は遠いようにも思える。しかし、戦争が人間に与える犠牲はきわめて大きく、戦場の状況は依然として不透明である。550万人以上がウクライナから避難し、双方で既に数千人の死者が出ている。

ロシアの当面の目的は、2014年に併合したクリミア半島への陸路の確保と、黒海のウクライナ沿岸の支配権の確立にあるようだ。ウクライナ軍は、ベラルーシ国境沿いの北部でロシア軍を押し返すことに成功し、首都キーウを含め、国土の中部・西部の支配権を維持している。

ウクライナ大統領はNATOの支援に依存しているが、既にNATO加盟の意向はないことを明らかにしており、自国領土の一部に対する主権を放棄する意向もないようである。現在までのところ、両国の外交的な接触は人道的な合意の問題に限定されており、一般市民の被害を予防・軽減するための措置は話し合われていない。

不安と緊張が再び欧州を捉え、紛争の行く末と、それが与える経済上・人道上の影響に対する世界の懸念が高まっている。最大の恐れは、核兵器使用につながるような形で紛争が軍事的にエスカレートしてしまうことだ。ロシアとNATOの核戦力にはそれぞれ「戦術」核兵器を含む。戦術核とは、戦場での作戦のために開発された比較的出力の弱い核兵器のことである。

それでもなお、それらの戦術核は広島・長崎を灼いた核兵器よりもはるかに強力である。核兵器を使用すれば、敵からの反応を引き起こし、予測不能な結果をもたらすエスカレーションの引き金となりかねない。

1987年に締結された条約によって欧州に配備されている中距離核ミサイルが撤去された。この決定は国民に安堵感を与え、両超大国間関係にデタント(緊張緩和)をもたらした。しかし、ロシア領内に現在展開されている部隊にしても、NATOが航空機あるいは潜水艦から使用できる核兵器にしても、直接対決した場合に壊滅的な被害を引き起こすのに十分なものである。

さらに、米ロ両国は、既存の防衛システムを回避しうる超音速の大陸間弾道ミサイルを保有する。それが使用されれば、互いを完全に破壊することになり、地球のその他の部分にも不可逆的な帰結がもたらされることになるかもしれない。事故や単なる過失によって人類が絶滅することがあるかもしれない。ロシアと西側との現在の対立はロシア・ウクライナ紛争という形で現れているが、これは通常兵器にのみ依存する形で進んでいる。ただし、NATOがさらに直接的に関与することになれば、核による報復の脅しが微妙な形でかけ続けられることになるだろう。

世界における永続可能な平和は、すべての当事者の正当な安全保障上の懸念を考慮に入れた誠実な理解を通じてのみ達成しうる。国際社会の手にある交渉手段は、戦争の惨禍を防ぐことを正に目的として創設されたものだ。

過去と現在の血なまぐさい紛争がもたらした計り知れない人的・物的損失が再発する危険性は、人類が歴史から何も学んでいないという警告である。より破壊的な兵器を求める競争は、決して覇権をもたらすものではない。むしろ明白なように、それは際限のない戦争を生み出し、煽る要因となる対立と不信を永続させる最も直接的な道なのである。

私たちの歴史を、より殺傷力の高い無差別な兵器による絶え間ない紛争の連続たらしめることは、論理的あるいは道徳的に正当化できない。人類は、一部の人々の安全が、他の人々の安全を犠牲にして達成されるものではないことを、今一度、理解しなければならない。過去の教訓を踏まえ、知恵と自制心を持つことが、平和な未来を築き、未曾有の大災害の危機を回避する最善の方法なのである。(05.10.2022) INPS Japan/ IDN-InDepth News

 

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